公開日:2026年04月04日(土)
農家ライフ
自衛官の知見や能力を農業に掛け合わせることで、自衛官と農業界の双方の課題解決につなげるという農業自衛隊。立ち上げたのは陸上自衛隊の松上信一郎(まつがみ・しんいちろう)さんです。「農衛」というキーワードも挙げられ、日本の農業を守る使命感に溢れる組織の強みと、その展望とは。
農業自衛隊とは、退職自衛官の再就職先として農業界をつなげることで、人手不足にあえぐ農業界の課題も解決させるという組織です。
スタートは2025年。現職の自衛官や民間の会社員など、松上さんを含む5人が任意団体として立ち上げました。
その後、運営母体として、一般社団法人農業自衛隊推進機構も設立。現在は援農を主体に参加するクルーチームや、活動に賛同し主体的に動くメンバーなど、約60人の体制になりました。クルーチームは現職の自衛官が主ですが、退職した自衛官も参加しています。
「入隊資格は特にありませんが『農業を支援したい』という志があるかを、何より大切にしています」と松上さん。「『自分だけが良ければいい』『1回の援農で終わりでいい』といった姿勢では、農業自衛隊への信頼を失することになる。そのため、しっかりとした志のある人たちに参加してほしいと思っています」

農業自衛隊隊長の松上さん(写真左から2番目)と農業自衛隊のメンバー
農業自衛隊立ち上げのきっかけは、松上さんが50歳を目前に控えた頃、自衛隊の活動外で参加した農業研修だったそうです。
「退職を見据えたときに、田舎暮らしや自給自足の生活をしたいと考えて、あるサツマイモ農家さんのところで研修を受けました。そこで農業の働き手がどんどん減っていることや、その中でも国民にサツマイモを届けることに使命感を持っていることを聞いたのです。『自衛隊と似ている』と感じました」
そのときに何か農業に貢献できないかという思いが湧いたと松上さんは振り返ります。
「研修でのワークショップで、ひらめいたキーワードが『農業自衛隊』でした。陸・海・空に続く『第4の自衛隊』を作りたいと発表したら、そのコンセプトを周囲が評価してくれまして。それがきっかけになりましたね」

農業自衛隊には、退職自衛官の再就職先として農業界をつなげるという重要なコンセプトもあります。
自衛官は特殊な任務に就くこともあり、若年定年制という制度の下で働いています。若年定年制では主に50代半ばで定年を迎え 、退職後は再就職などによって生活の糧を稼ぐことになります。
松上さんはその実状を次のように話しました。
「退職自衛官の再就職は、意外と浮かばれていないのです。再就職の紹介を受けても、キャリアを生かせなかったり、希望が通らないことがあって。限られた選択肢の中から、給与などの条件面だけで再就職するケースもあります。『第二の人生』がそれでいいのかという疑問や悲しさを感じていました」
そこに農業という選択肢を示すことで、「農業を支え、国を守る」というミッションを持ちながら第二の人生を過ごせることになります。
現在は農業界に再就職する自衛官はわずかで、農林・水産・鉱業を合わせて1%程度に過ぎません(※)。しかし、自衛官の特性は、農業者の特性と重なる部分も小さくないでしょう。ミッションに対して抱く使命感、屈強な身体とチームワーク、さらには重機や機械などの運転スキル。いずれも農業界で活用できる力だと言えます。
※「若年定年自衛官及び任期制自衛官の再就職決定状況」防衛省、令和5年度実績 より

援農の様子
農業自衛隊は、立ち上げから2026年3月現在までに、主に関東地域の30軒近くの農家への援農を行ってきました。しかし立ち上げ当初は、農作業の経験もありませんでした。
「最初は、飛び込み作戦でしたね。農機具の扱い方も不十分でしたが、何かできることはあるだろうと考えました。ですから『何でもやります』と、InstagramやLINEでメッセージを送っていました。短期間に多方面での経験を積めましたよ。援農に行った先では、技法や考え方を1つ1つ学びました。現地でインプットした生の声を自分の中でブレンドして、農業自衛隊の活動に生かしています」
援農によりノウハウを身に付けると同時に、ネットワークを持つことで、退職する自衛官のマッチングにもつなげていきたいと松上さんは考えています。
「援農に行く先の農家は、皆さんが本当に素晴らしいです。山梨県北杜市の株式会社ファーマン や、神奈川県横須賀市のみのりファーム などは、風景も農作業もその考え方も印象的でした。自衛官は狭い世界で生きているところがあるので刺激になります。おそらく援農に参加する現役の自衛官は、通常の仕事のパフォーマンスも上がるのではないでしょうか」
現状は農業自衛隊推進機構が援農を軸に収益を得つつ、農業自衛隊の隊員が地域おこし協力隊にもなって、その地域とも関わっていくことを重視しています。

農業自衛隊では、ゆくゆくは農地を利用して、農作物の生産も行うことも視野に入れています。農業や地方創生など、視野は広く、やれることは全てやっていきたいという松上さん。最後に、活動の展望について聞きました。
「平時はもちろん、災害や有事の際にも僕らは役に立ちたいと思っています。例えば災害が起きたときに、被災者へ新鮮な野菜を届けるということもやっていきたい。僕らは農家に比べれば経験などもまだまだだとは思います。ですが『国を守る』という根底の思いは、農家と農業自衛隊は同じで、まさに同志だと考えています。共鳴・共感する人と、日本のためにぜひ一緒に活動していきたいです」
(編集協力:三坂輝プロダクション)
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