
「六次産業化」は、生産(一次産業)、加工(二次産業)、販売(三次産業)を一体化させた取り組みです。
農家の方が六次産業化に取り組むことで、作った農作物の価値を高めたり、地域に貢献できたりといったメリットがあります。
こういったことがわかっていても、具体的にどのように進めていけばわからない方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、実際に六次産業化に取り組んできた2社に、どのように六次産業化に取り組んできたのか、その過程で大変だったことや得られたメリットなどについて伺いました。
お話を伺った方:
「六次産業化」は、生産から加工、販売までを一貫して行うことで新たな価値が生まれる一方、その道のりは簡単なものではありません。
農作物からどんな商品を作るか、加工してできた商品をどのように差別化するか、どうすれば加工品としての価値を高められるか、どうやってお客さんに知ってもらうかなど、たくさんのことを考えなければなりません。
今回お話を伺ったPLUSの三輪氏は、「アレルギーでパスタやお菓子などを食べられない人も、安心して美味しく食べられる商品を作ろう」という想いのもと、異業種から六次産業化に参入しました。
PLUSでは、自社でお米を生産し、そのお米を自社の米粉専用工場で加工することで、米粉や麺類、菓子材料などの製造を行っています。
一般的な米の生産者は、主食用のお米の生産だけでは経営が厳しいのが実情です。
そこで、同じ農地に複数の農作物を順次栽培する「二毛作」や「三毛作」を行うことで、収益を増やしている生産者は多くいます。
特に、麦、大豆、そば等は交付金が支給され、二毛作や三毛作のひとつとして生産されています。
しかし、麦やそばは、アレルギー特定原材料28品目に指定されていて、麦やそばを生産している農地で作られたお米を使った商品では、重度のアレルギーの方は症状が出てしまう可能性があります。
お子様が小麦アレルギーであった経験がある三輪氏は、重度のアレルギーであっても安心して食べられる米粉を作ることで、パスタやお菓子を食べられるようにしようと考えたのです。
さらに、他の農家の米が混ざらないように、自社で種まきから田植えまで行い、収穫後の乾燥調整や加工も全て自社で行っているということです。
また、三輪氏は大のパスタ好きとのこと。原材料にお米を使っていても、小麦を使ったパスタと遜色のない商品開発を行ってきました。また、パスタだけでも白米タイプと玄米タイプで10種類ずつという、ラインナップの多さも特徴です。
その結果、PLUSの商品を食べたお客さんから、感謝の声や美味しいといった感想をもらえているのだといいます。
PLUSの三輪氏は、「今までアレルギーで困っていた方から、『食感は小麦粉のものとほぼ変わらない』『今まで食べた米粉パスタの中でもPLUSの商品が好きだ』などのお声をいただけています。小麦の乾麺パスタの食感は、コシがあるのが特徴です。米粉で同様のコシを出すのは難しく、設備投資も必要ですが、食感にこだわった商品改良を重ねています。」と、お客さん目線で商品開発を行っていることを強調します。
さらに、PLUSの商品が航空会社の国際線の定番商品として導入されていたり、大手スーパーが運営しているオーガニック食品中心に扱うプライベートブランドの商品として採用されたりと、販路を拡大しています。
そこで、農家の仕事からすると専門外とも言える販路開拓のコツを伺うと、「地道な努力」なのだと三輪氏は言います。
「もともと農業とは関係のない仕事をしていたこともあり、お金も人脈も何もない状態からのスタートでした。そうした中、行政が支援している展示会に出店するなどして、地道なPR活動を行ってきました。」(三輪氏)
このようにPLUSでは、ターゲットを決め、そのターゲットに喜ばれる商品開発を行い、ブランディングやPR活動を経て、販路拡大へとつなげてきました。
これから六次産業化に挑戦したい生産者に向けたアドバイスを伺うと、「夢を持って目標設定をしたら、数年スパンで振り返ることが大切だと考えています。大変な道のりではありますが、目標にどれだけ近づけたかを振り返りながら前に進んでください。」と、エールをいただきました。
一方、地域ぐるみで六次産業化に取り組んでいる事例もあります。
六次産業化を地域で取り組む場合は、一人の生産者が生産から加工、販売の全てを行うのではなく、複数の生産者からの農作物を活用します。
また、地域の販売店舗や飲食店、観光事業とも連携しながら、地域全体を活性化させることで収益を得たり、地域の魅力を伝えたりするという特徴があります。
今回お話を伺った、ちば南房総は房州びわの生産地として有名な富浦町で、地域の規格外のびわを活用し、ジャムやゼリー、饅頭や飴などの加工品の製造や販売を行っています。
もともとは、富浦町が中心となって地域を盛り上げるための活動をしていました。これには、道の駅「枇杷(びわ)倶楽部」で行われる地元文化の促進や地域振興、情報の発信などが含まれていて、これらは「富浦町役場の枇杷倶楽部課」が担当していました。
また、富浦町が全額出資し、町長が社長を務める「株式会社とみうら」が、売店や喫茶店を運営するなどの商業活動を通じて、観光客を呼び込む役割を果たしていたといいます。
しかしスタートした当時は、すでに販売している地域の商品と同じようなものを売ることは、競合商品が増えることになり、地域にとってのメリットが少ないという課題がありました。
そこで、ちば南房総は富浦町が約70%を栽培している房州びわのうち、捨てられてしまう規格外のびわを活用して、オリジナルの加工品を作ることを決めました。
その後、南房市内の3つの第三セクターが一つになり、2012年10月1日に「株式会社ちば南房総」として新たにスタートしました。
現在は、ちば南房総が枇杷倶楽部を含む7つの道の駅の運営を手がけています。
鈴木氏は、「これまで規格外のびわは、近所に配ったり、家庭でジャムやシロップ漬けにしたりと、収益につながるような取り組みは行われていませんでした。この規格外のびわを活用してオリジナル商品を作ることで、地域に貢献しながら新たな利益を生むことができます。また、『枇杷(びわ)倶楽部』という名称でブランド化することで、房州びわをさらに広めようという想いから始まりました。」と、現在の活動のきっかけについて語ります。
びわの加工はどのようにして行っているのかについて伺うと、富浦町が設置した道の駅の中の業務用加工所を借りる形で活用しているのだといいます。
そのため、はじめの初期投資は民間企業に比べると低額でスタートできた一方、びわの加工を行っている中での必要な設備投資は行っていたようです。
びわは、冷蔵庫に入れて保管しても日持ちせず、シロップ漬けにするにしても手作業で皮を剥くのは時間がかかりすぎて悪くなってしまうという課題がありました。
そこで、早く処理を行うために、ピューレ状にすることを発案。そのための設備はちば南房総が準備したのだといいます。
しかし、それでも収穫期が短いびわは買取りが集中するため、果実を保管しておかなければなりませんでした。
そこで、温度変化がなく、湿度を90%以上に保ってくれるウェットエアークーリング※という仕組みの冷蔵庫を導入したということです。
※ウェットエアークーリング:氷蓄熱槽と水/空気直接接触型熱交換器を一体化して35℃を超える外気からでも一気に低温(5℃DB以下)、高湿(90%RH以上)の冷風をつくり出せる空調機を使った冷蔵システム
こうして必要な設備投資や設備のメンテナンスを行いながらびわの加工を実現し、現在では50種類以上のびわ商品を製造しています。
ちば南房総の取り組みによって、生産者にどのような影響が出たのかについて鈴木氏に伺うと、「弊社ではびわの加工のほかにも、首都圏の観光事業者と連携したり、PR活動を行ったりすることで、観光客の誘致をしています。
その結果、枇杷倶楽部の商品に加えて、地域の特産物が売れたり、びわ狩りを楽しんでくれたりと、生産者の方にも波及効果が生まれていると考えています。」と、地域全体で活性化することのメリットについて述べました。
最後に、地域で六次産業化に取り組みたいと考えている方に対するアドバイスを伺うと、「地域全体が笑顔になることが一番大切なことだと考えています。そして、笑顔になるためには儲かっていることが重要です。自社だけの利益を追求するのではなく、関わっている人たちが笑顔になるための取り組みや仕組みづくりを心がけています。」と、地域という大きな枠で捉えた上での利益追求が重要なのだと語りました。
今回は、生産者による一貫した六次産業化と、地域を巻き込み、さまざまな人や企業が関わっている六次産業化の事例について紹介しました。
どちらの事例においても、自社や地域の農作物の強みを活かし、消費者や関わっている人たちのメリットにつながる取り組みを行っていることが伺えました。
六次産業化は、生産に加え、加工や販売も担うため、複雑かつ大変な道のりではありますが、得られるメリットも大きいのではないでしょうか。
是非、自社の農作物をさらに活かしていくことができないか、検討してみてください。